2004/11/01UP


天災の備え

 どうにも落ち着かない夜だった。不気味なうなり声を上げる風が家屋を揺らす。横殴りの降雨が激しく屋根をたたく。先日、日本列島を直撃した台風f号。阿武隈川を管内に抱えているだけに、水害は天災の中で最も頻度が高い。「被害が出るようなら、即座に取材に出なければならないなあ」。雨合羽や懐中電灯を備え、刻々と被害状況を伝えるテレビ画像が、関西から関東、そして東北へと徐々に北上している。パソコンやテレビを通じて推移を見守っているうちに、いつしか夜明けが迫っていた。◇前触れもなく襲ってくる地震に比べ、台風なら軌道や勢力、被害規模までが事前に判明し、被害が集中する時刻までのあらかたの予想がつく。気象情報に気を配ってさえいれば、心の備えまでの余裕はある。これまでも阿武隈川氾濫の取材は何度か経験したきたが、その度に地元住民の手際には驚いた。家族総出で家財を高所に移し、自宅浸水には目もくれず、とりあえず安全な場所に逃げる。水がひけば地域をあげての洗浄活動。その表情には、諦観も憤りも強くは感じられない。地域全体が長く川の驚異にさらされながらも、その自然環境と調和してきた証でもあるのだろう。◇と、原稿を書いている間に新潟でも大震災が発生した。伝えられる報道を見る限り、かなりの被害が発生しているのは間違いない。かつて阪神大震災から3年を機に、現地ルポに訪れた際の神戸市防災担当者のインタビューが蘇る。「被害が大きければ大きいほど、行政機関は機能不全に陥る。結局、自分を守るのは自分しかないんです」。宮城県での地震発生が予測されている今日、水害だけでなく、地震の発生への対策も急務だ。前兆のない地震。これと共生するのは難義だが、もう一度、家内の避難グッズや防災対応を点検し、来る日に備えなくては。