2010/11/1UP


期間限定!2人支局

 いつもは従業員が私以外いない支局に9月末の2日間限定で、助手が1人付いてくれることになった。丸森町の中学2年女子のAさん。記者の卵だ。学校から地域に飛び出し、働く尊さや苦労について知る職場体験学習の一環なのだが、スーパーや商店、美容室などの接客業を選択する生徒が多いなか、新聞製作に興味があるというAさんは迷わず支局を訪ねてくれた◆受け入れる側としては正直、戸惑いもあった。最新ニュースが慌ただしく飛び交う本社編集局、インクの香りを漂わせて輪転機がうなるような音を出す印刷センター…。同じ河北新報社でも、これらの施設なら社会科見学に向いているし、“働く現場”を肌で感じやすい。一方の支局はパソコン、ファクス、プリンターといった最低限の機器が並んでいるだけで、一般的な事務所と比べても人様にお見せできるような場所とは言い難い。Aさんの期待に応えてあげられるだろうか。急に事件が起きたら彼女を放ったままにする可能性もあり、不安は尽きなかったが、「それも貴重な体験になる。できる範囲でやらせてください」と学校からの申し出もあり、受け入れることにした◆とはいえ、実際に何を体験させたら良いのやら、すぐ思い浮かばなかった。情報をキャッチし、取材、執筆することで話題やそこに潜む課題を読者に提示するのが記者の仕事。言葉で説明するのは簡単だし、自分が毎日繰り返しているはずなのだが、他人にやらせてみるとなると、つい考え込んでしまう。情報収集と称して取材先を回り、1日中茶飲み話をしている姿を見せれば、彼女は記者業に幻滅するかもしれない。思案した結果、市役所などの厚意もあって、Aさんが取材に挑戦できそうな場面を両日とも用意することができた。実際に取材、執筆してもらった後で私が原稿を添削すれば、立派な職場体験になりそうだ◆足を運んだイベントの一つは、大友喜助市長と市民が食事しながら語るランチミーティング。角田市内の話題が中心になるので、丸森町の中学生にとって理解が難しい部分もあっただろう。私からのフォローは最小限ににとどめ、「疑問があれば直接質問してみよう」と勧めると、Aさんは緊張しながらも取材相手に向かっていった。知識や情報のパズルを頭の中で一つの絵に組み立てようと、必死になって足りないピースを探す彼女を見ていて、自分にとっても記者という職業を客観的にとらえられる貴重な経験になった◆「この仕事に就くためには?」「苦労は?」。2日間、Aさんから私に向けても質問がぶつけられた。格好付けた表現で照れ臭いが、「世の中は知らないことだらけ。知らないからこそ知りたくなるし、そこで得た知識、感動を誰かに伝えたくなる。だから好奇心を忘れないで」とアドバイスした。仕事のやりがい、醍醐味を少しでも感じてもらえただろうか。