2002/12/01UP


新刊探訪

 最近、めっきり本を読む機会が減った。といっても読書にかける時間は、 気ぜわしい本社勤務時代から見れば格段に増えている。仕事部屋はもちろん、寝室、トイレにも本棚を設け、入浴時にも文庫本を携えるくらいだから、 活字に飢えているのは今も昔も変わりはない。ただ、新刊を手を出すことが少なくなった。新刊のまとめ買いはなくなり、手元に置いてある数冊の顔ぶれは一向に変わらない日が続く。 本棚から新たに取り出すのも同じローテーションを繰り返しているのに気づき、なかばあきれながらページを繰ることが多くなった。◇学生時代は一時、 「一日500ページ」の読破を目標に掲げ、歴史書から、小説、 いわゆるトンデモ本まで手当たり次第に入手し、講義も無視して没頭した。入社してからは時事本や時々の仕事に関わる読書が増え、宮沢賢治の企画を始めれば 全集や解説本を山の様に買い込み、事件、司法記者となれば法律書や犯罪関連の書物に入れ込んだ。一時は「薬物マニュアル」や「遺伝子捜査」「検死解説」なんてタイトルばかりが自宅の本棚を埋め、 家人から「本棚だけ見れば立派な変質者だね」なんて繰り言が出ることもあった。◇時に必要に駆られてだったり、単純な時間つぶしだったりと読書の動機はさまざまだ。 しかし、小説でも専門書でも、読書体験には必ず新しい発見があり、新鮮な驚きや追体験が伴う。そんな知識欲や好奇心と読破する書物の量は、常に一定の比例関係にあったような気がする。 読み慣れた本は安心だし、理解も深い。再読は悪いことではないにせよ、そうした知識欲の減衰が最近の読書傾向に現れているのでは、と自省してみたりもする。 ◇季節はもう冬。「読書の秋」は過ぎたとはいえ、厳寒を避けて室内にこもる機会は確実に増える。長く、退屈な夜を満たしてくれる本を探して、今、書評欄の切り抜きを着実に増やしている。