2002/06/01UP


インタビュー再考

 いささか興奮しているのが自分でも分かった。 ことし4月、角田市内の福祉施設「虹の園」でピザを焼いているのが元プロ野球選手と聞き、 押し掛けるようにインタビューに走った。Jリーグ誕生のはるか前。「将来の夢は?」と聞かれれば、「パイロット」「プロ野球選手」と口をそろえた世代の一人だ。 興味がない訳がない。「転身の理由は」「球界に未練はないのか」。知りたいことは山ほどある。自分でも不躾で、失礼な質問だったと思う。 そんな拙いインタビューにも、答えは誠実で、選び抜いた言葉の1つ1つは第一線に立ったアスリートならではの機微にあふれていた。◇前任地で高校野球を担当した時期があった。18歳の高校生がスカウトされ、華々しく地元を去る姿に紙面で声援を送ったこともある。 でも、フラッシュの放列の中にあったその紅顔をテレビで見るのは困難だ。せいぜい、スポーツ紙の片隅に盛り込まれた短信記事で近況を知るのがほとんど。 厳しい実力社会なのは承知していても、気がかりは消えなかった。「彼らは今、何を考えて生きているんだろう」、と。◇「球界に未練はない。今は自分の仕事が楽しい」。数万人の歓声の中に立った人間が、当時をどう振り返り、今、何を思うのか。 冒頭のインタビューの一言一言が、記者としての長年の疑念をはらしてくれた。そして思った。厳しい世界に挑み、常に新たな夢を描いて力強く歩を進める生き様―。そんな先達の後ろ姿こそが、 あとから夢を追う若者の励みになり、手本にもなるのだと。