2002/05/01UP


心に響く言葉探して

 取材の醍醐味の一つは、何と言ってもあらゆる立場の人々の生の声を聞くことができることだ。 先達の重い含蓄を含んだ人生訓から、街録と言われる「町の声」まで。さまざまな立場の、それぞれの思いを聞くことで、新たな発見に驚き、時に共感したり、時に自分の浅薄さを痛感させられる。 そんな人々の言葉そのものが自分自身への貴重な栄養源になることも少なくない◇質問をする暇がないほど能弁な人もいれば、冷や汗をかきながら訥々と短い答弁をもらうことだってある。 取材対象者との相性、性格もそれぞれ。ノートを広げ、メモを取り出すと途端に口をつぐんでしまう人もいる。苦労して集めた証言もすべてが文字に起こせるとは限らない。相手の真意がどこにあるのか、 人柄を示す一言はどこにあるのか。事務所に帰ってメモを眺め、最前の一言を探す。ただ、メモを見る必要もない時も少なくない。虚礼や修辞を排した、打算のない「肉声」は、 不思議に頭にこびりつき、決して消えることはないからだ◇かつて、政党の幹部、党首クラスの取材となれば、一言一句を聞き漏らすまいとテープを回し、必死にメモをとったものだ。細かいニュアンスに心を砕き、 細部に神経をとがらす。だが、そんな手間をかけた取材は意外と何も頭に残ってはいない。定年後も未解決事件を追い続ける元刑事、若き日に山で消息を絶った兄の遺品を追い求める白髪の男性・・。 記憶に残っているのは、むしろそんな無名の人々の吐息のような、温もりにあふれた重い一言ばかりだ。頭でなく、心に響いた言葉は、歳月がすぎても深く刻み込まれ、風化することはない。 そんな「ことば」を2つの耳と、心で探していきたい。