2001/05/01UP


菜の花祭りと空中散策

 ふわりと体が浮き上がる。浮遊感独特の頼りない感覚が平衡感覚を狂わせる。 風が咆哮を挙げて後方に飛び去っていくのが分かる。 瞬く間に眼下の阿武隈川がか細い線になり、四方山が間近に迫った。 先日、菜の花まつりの取材の折、商工会の方々の好意でグライダーに試乗させてもらった。 『乗ります』。誘いに応じては見たものの心中は複雑。「本当に飛ぶのか」「落ちるんじゃないか」「いや、そんなはずはない」「でも」-。自問自答はえてしてマイナス方向に走りがちだ。不安を笑顔に隠し、 シートベルトをつけてもらってようやく腹を据えた。「妻よすまん。一人で幸せに生きてくれ」。大げさじゃない。本気でそう思った。 そして離陸。乗ったのは動力のないピュアグライダー。 牽引するセスナ機が安全性を誇るかのように、エンジンの唸りを挙げる。あの駆動力が何ともうらやましい。「せめてこの子だけは」。同乗した息子(3つ)を抱く腕に力をこめた。  だが、そんな躊躇と暗い予感も、風のうなりと一緒に数分で吹き飛んだ。グライダーはぐんぐんと高度を上げる。思いのほか、揺れは少ない。風に乗る浮遊感がむしろ心地よい。 不安を置き去りに、心も一緒に高揚していくのが分かる。 田植えを待つばかりに潤いを満たした水田が、さっきまで濁って見えたはずの阿武隈の水面が、きらきらと反射する。角田を取り囲む山々の緑がまぶしい。「晴れていれば太平洋も見えるんです」。 操縦者の説明も上の空になった。 空気に抗わず、風に乗り、自然のままに飛ぶグライダー。それは、いぶかしげな装置やら、不恰好なエンジンやらの人為がないからこそ、 「安全で心地よい」のかもしれない。そんなグライダーの美しい流線型のフォルムが、どことなく眼下に広がる角田の街に重なって見えた。