2001/01/17UP


どんと祭はだか参り 体験記

 角田市商工会の建物を出て、わずか数歩歩いただけなのに「もう、やめたい」と思った。 1月14日夜、角田市で開かれたどんと祭・裸参りに初めて参加した。 この日、日本列島はこの冬一番の寒気団にすっぽり包まれていた。 仙台管区気象台によると、14日午後7時の丸森町、白石市の気温はマイナス3度を下回っっていた。 「出たくない」「裸はいや」と逃げ回っていたが、角田五郎の異名をとる、商工会青年部幹部に「裸参りに参加せずして、 角田を語るな」と脅され、しぶしぶさらしを腹に巻いた。裸まいりは県内各地で行われているが、 角田の特徴はその過酷さにある、といわれている。約3時間、寒風の中を肌をさらして歩きつづけるからだ。 しかし、市内の6つの神社の、日の神様、学問の神様、開運の神様、商売の神様、病に霊験のある神様、 五穀豊穣の神様をそれぞれたずね歩くのだから、参加者には「今年はこれでだいじょうぶだ」という妙な自信が付く、 ともいわれている。そして、当日。「ヨーホイホイホイ」。大声を張り上げないと、体の震えを抑えることができない。 裸の隊列の一部から「さみー」という奇声が聞こえる。神社に入っていくと、参拝客から「おー」という歓声が上がった。 「この寒い中よくやるな、おまえら」という視線が肌に刺さる。焚き火で体を焼いて、 次の神社へと進む。空は晴れて星が輝き、神社の参道には氷の灯篭が飾ってあって、 幻想的な雰囲気に包まれていたが、その美しさに見とれている余裕はない。「ヨーホイホイホイ」があまりに寒さに、 「ホイホイホイホイホイ」となり、いつのまにか、みんな小走りになっている。 境内で、ある貫禄ある参加者がみんなに水をかけ始めた。「やめてくれー」。 絶叫が夜空にこだました。商店街の休憩所の明かりと温かい汁が、これほどうれしいとは。 おかみさんたちがマツシマナナコに見えた。背中を丸め、汁をすする私を見て、角田五郎は、うれしそうにこう言った。 「これが角田の祭りだ。楽しいべ」やっとのことで最終地点の天神社にたどり着くと、マイクロバスが待っている。 「これから斗蔵山に行きまーす」。もうこうなったらどこでも行く、と勇んで降り立った斗蔵山の駐車場は一面雪に覆われていた。 神社への山道を歩く。雪を踏みしめる。指の感覚が薄れてゆく。とてつもなく寒い。 でも息は荒い。寒い、痛い、苦しい、寒い、痛い、苦しい。「なんでこっちに来ちまったんだあ」と角田五郎が叫ぶ。 すると、森の奥の方から明かりが差し込んできた。ドトン、トン、トン、トン。木々の間から太鼓の音が漏れてくる。 地元の人々が、太鼓と拍手で迎えてくれた。力を振り絞って、ぐっと胸を張って歩いた。 寒さと痛さと苦しさの代償に得られたものは、まさに得がたい感動の経験だった。ところで。 山からの帰り道、妙に髪の薄い人が、素っ裸で歩いているのを見たが、あれは「斗蔵原人」だろうか。 幻影かも。幻影でありたい。