2021/7/1UP


凍霜害

 「早すぎるなあ」と思いました。桜のことです。3月には開花し、4月半ばには散ったと記憶しています。昨年は阿武隈川沿いで菜の花畑と土手の桜を一緒の写真に収めました。今年はできずじまい。早い春を憎らしく思いましたが、例年とは違った気候の巡り合わせは、角田の農業に深刻な問題を引き起こしていました。  市内のナシ園が4月の凍霜害(とうそうがい)で壊滅的な状況になりました。3月が温暖で開花が早まったところに、氷点下の冷え込みが直撃。取材したナシ園では、多くの花で雌しべが枯死しました。受粉できず、実がつきません。何とか膨らんだ実も、ほとんどに傷やひびが生じました。出荷量は大幅に減り、記録的な不作となる見通しです。リンゴやウメも打撃を受け、市内の果樹全体で被害額は6000万円以上となっています。 角田市はナシの栽培面積で蔵王、利府両町に次いで県内3位。立派な特産です。昨年9月に道の駅かくだでナシの販売フェアがあり、取材しました。接客していたナシ農家が「角田のナシは他の産地に負けないおいしさ」と強調していたのを記事で触れました。多くの人に角田のナシを知ってもらえればと思いましたが、まさかその翌年、「角田産ナシ ほぼ全滅」と見出しを打つ記事(5月30日朝刊県内版)を書くことになろうとは。 農家は実がならなくても、来年の生産に向けて木の手入れを欠かしません。取材した農家は、作業をしながら不安を語ってくれました。「暖冬の傾向が続いて開花が早まり、来年以降も被害が繰り返されるのではないか」。生産意欲に関わる重大な問題です。凍霜害の防止策として燃焼資材で周囲を暖める手法がありますが、広い果樹園では多数の地点で火をたくことになり、重労働になります。地表に暖かい空気を贈る防霜ファンも高額なため多数の設置は難しいそうです。農家の高齢化や人手不足などの現状もあり、決定的な手だてを見いだせないのが実情です。 角田市は蔵王町、みやぎ仙南農協と歩調を合わせ、防霜ファンの導入支援などを県に要望しています。農家が懸念するように開花が早まる気候が続くとすれば、来年だけにとどまらない継続的な支援体制、抜本的な対策が求められます。農家が今のうちから不安を解消し、生産意欲を損なうことなく来季の栽培へ準備できるようにすることが大事です。行政の動きが早すぎて困ることはありません。


凍霜害を受けた果樹園

昨年9月に道の駅かくだであった
フェアで販売されたナシ