2005/06/01UP


田舎は便利だ

 ◆…民宿なのに、電話がない。泊まりたい人は手紙を書いて予約をする。岩手県北部の野田村の山奥にある、そんな一風変わった宿屋を四年ほど前に取材したことがある。「田舎は便利だ」。宿を営む夫婦の言葉が今も印象に残っている。◆…旦那さんのアルバイト先までは、車で十五分ほど。東京など大都市では、通勤時間が一、二時間かかることも珍しくない。ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られることもなく、「痛勤」とは無縁の生活。宅配便を受け取るのも、近所の人が預かってくれるのが当たり前。困ったことがあれば、誰かがそっと助けてくれる。そして何より、ゆっくりとした時間の流れがある。そんな暮らしがすっかり気に入っているのだとか。 世界各地を渡り歩いた後で、一見、不便な田舎に落ち着いた二人の考え方。「便利な都会」「不便な田舎」という【常識】が、客観的な事実などではなく、しょせん価値観の違いにすぎないのだとあらためて教えられた気がする。◆…三年間の仙台暮らしから角田に転居して二カ月。日常生活という点からみると、さほど違いがないことに気付いた。日用品の買い物は、スーパーで駐車スペースに悩むことなくさっと済ませられる。息抜きに行く飲み屋やレストランも、お気に入りの店を何軒か見つけた。国分町のような歓楽街は望むべくもないが、そもそも仙台でも行く価値のある店なんてさほど多くない。コンサートやスポーツ観戦など「非日常」を楽しみたければ、仙台まで足を伸ばしても1時間ほどだ。人情豊かな土地柄で、おだやかな自然を身近に感じられるこの街の暮らしは、仙台よりもよっぽど住みやすいと感じるようになった。◆…歴史を見れば農村部から都市への人口流出が続いてきたが、最近は「田舎のよさ」が見直され、風向きが変化している。角田市や丸森町でも、定住促進のためのさまざまな政策を仕掛けている。課題はたくさんあるにしても、「角田暮らし」の楽しさに目覚めた住人の一人として、その風をつかまえられるよう、しっかりと後押ししていきたい。