2009/11/1UP


誰に伝える?

 角田市にやって来たばかりの4月ごろ、佐渡から飛来しているトキを探して市内をあてもなく回っていた最中、 携帯電話に1通のメールを受信した。「午前○時△分ごろ、北朝鮮から飛翔体が発射されました」。市民になって 間もなく登録した「かくだ安全・安心メール」は非常に便利だ。火災や台風といった災害の状況はもちろん、 インフルエンザ対策などの市の対応も素早く知ることができ、一市民としてだけでなく仕事上でも有効に活用 させてもらっている。ただしメールは取材をスタートさせるきっかけに過ぎない。自分で見聞きしたことを肉付けし、 紙面を通して読者に伝えるという作業が残っているからだ◆先の角田市議会9月定例会で考えさせられる出来事があった。 議会最終日の10月2日、市当局から提案された補正予算案に対して一部会派から反対の声が挙がり、修正動議が出された。 補正の目玉は新型インフルエンザのワクチン接種費助成(予算措置は角田市が県内初)なのだが、会派が噛みついたのは 別のところにあった。市内にいる行政区長93人にファクス機器を貸与するため、市は購入費195万円を計上した。 今春の山林火災に代表される災害情報を素早く区長らに伝達するのが目的だという。反対派は①メンテナンスを含む 市の財産管理方法②目的外使用の線引き③区長から区民への連絡体制④防災効果―など、検討段階の部分が多すぎると 主張し、ファクス購入費の削除を求めた◆主張は結局退けられ、動議は否決。原案が可決された。個人的に計画そのものに 異論はない。ファクスがいざという時に役立つのは知っている。区長側は受信が中心になるはずで、私的送信に利用した としても通信費は本人負担になるから問題は少ない。区長らの年齢を考えると、携帯電話よりファクスの方が気軽に扱える のも理解できる。とはいえ、市当局の説明が十分だったとは言い難く、具体的にどんな使われ方をするのかよく分からない というのが率直な感想だ。中でも反対議員が理由の一つとして挙げた③について、市は「これから詳細を詰めたい」の 一点張り。納得できる答えは最後まで示されなかった◆情報は伝えるべきところまで本当に届くのだろうか。今回の場合、 情報の最終的な受け手は市民であるはずなのに、そこに至るプロセスがあいまいなままだった。区長から先の伝達方法は それぞれの判断に任せてもいいが、明確にはさせておくべきだ。地域の代表である区長に知らせることを軽視するつもりは ない。区内の住民に1人残らず伝えようと思うなら、区長の負担も増すだろう。機器を与えることで市は満足せず、 決して少額ではない195万円を最大限に活用してほしい。市民の安全を最優先に考え、共有しようという姿勢があってこそ 情報と呼べるし、価値がある。