2007/9/1UP


絵本で伝える

 ◆…地域に生まれたすべての赤ちゃんに絵本を贈る「ブックスタート」事業が角田市でも十月から始まることになった。 絵本を通じて親子が楽しい時間を「分かち合う」ことの素晴らしさを伝え、そのきっかけを提供する運動だ。英国発祥で、国内でも六百以上の自治体(七月末時点)に広がっているそうで、ご存じの方も多いかもしれない。◆…事業を企画したのは市社会福祉協議会。理念に賛同したボランティアが赤ちゃんの三、四カ月健診の会場に出向き、二冊の絵本と一緒に、読み聞かせのアドバイス集や子育て支援情報を盛り込んだパンフレットをセットにして親子にプレゼントする。 毎月の健診会場に出向くので、すべての赤ちゃんにもれなく行き渡る仕組みだ。(今年四―九月に三、四カ月健診を迎えた場合は、十月以降、希望すれば社協窓口で手渡される)。◆…先日、市総合保健福祉センターで、運動の推進役である東京の民間非営利団体 「ブックスタート」の大津智美さんを招いた勉強会があり、ボランティア希望者らと一緒に講演を聴かせてもらった。◆… 大津さんは、運動が「読書のススメ」や早期教育の奨励、ましてや保護者にプレッシャーを掛けたり、 赤ちゃんに負担を強いるようなものではないことを強調。「愛されていること、守られていることを赤ちゃんに伝えることが大切。『言葉を掛ける』ことで、意味そのものはわからなくても、それが伝わる。絵本はそのツールなのです」と説明した。◆…セットを配布する際には、必ず地域のボランティアが保護者と一対一で向き合い、運動の趣旨を丁寧に説明する。その会話を通して、子育てに悩む親に手を差しのばすきっかけになったり、「地域みんなで子育てを応援している」というメッセージを伝えることになるのだという。 ◆…運動の要点は「すべての赤ちゃん」を対象にしていることだ。絵本の読み聞かせが大切だと考える親、ゆったりと絵本を開くゆとりがある親ばかりなら、「余計なお世話」で切り捨てられてしまうかもしれない。 だが、現実はそうではない。だからこそ、絵本のプレゼントを入口に、他人が介入しづらい子育てにすんなりとかかわりが持てる運動の意味が出てくるのだろう。◆…大津さんは最後に「社会の『母性』をみんなで育てていく活動」との言葉を紹介していた。「わが子ゆえにかわいい」のが人間の本性だとしても、一方でほかの子もみな、すこやかに育ってほしいと願うのもまた本性だと思う。 子どもを慈しむ気持ちというのは、心地よい感情だ。運動をきっかけに、地域全体がこのぬくもりを共有できるようになれば、社会からあたたかなまなざしを向けられる赤ちゃんと保護者だけでなく、「みんな幸せ」になれる気がする。事業の発展を期待したい。